研究テーマ


①ハニカム多孔質体を用いた高性能冷却の物理と応用
沸騰現象を用いると、蒸発潜熱により、大量の熱を輸送することが可能です。それに加え、自然の力である毛細管現象をうまく組み合わせると無動力で高性能な冷却が可能となります。例えば、細いパイプほど、毛管力が大きくなることが知られていますが(毛管圧力は,パイプ径が0.1μmの場合,約100 mH2O(1 MPa)にも達します)、そのようなミクロなパイプを作成することは容易でありませんが、緻密な細孔を持つ多孔質体を用いるとそれが可能となります。本研究室では、特に、沸騰現象とハニカム多孔質体(図2)をうまく組み合わせた独自の高性能な冷却手法に関する研究を行っています。


図1 毛細管現象
(毛管圧力は,パイプ径が0.1μmの場合,約100 mH2O(1 MPa)にも達する)

図2ハニカム多孔質体の一例
(一般に自動車や工場の排ガス処理に利用されているものです。)

①-1  高熱流束除熱(プール沸騰対象)
電子機器の高発熱密度化などに対応して,1000 W/cm2もの超高熱流束除熱を実現する冷却技術が切望されています。そこで本研究室では,ハニカム多孔質体を伝熱面に装着するだけというパッシブに作動する新しい冷却手法を提案しています。一般に、沸騰冷却の限界は、限界熱流束(Critical Heat Flux、以下CHF)と呼ばれ、これを超えて熱負荷を増やすと熱機器は破損します。これまでの研究では、CHFをハニカム多孔質体により従来比300%以上(100から320 W/cm2へ向上),飛躍的に向上させています。その向上原理は,図3に示すようにプール水中の発熱面上にハニカム多孔質体を設置し、加熱するとハニカム多孔質体底部には気液相変化に伴いメニスカスが形成されます.加熱によりそのメニスカス部が蒸発すると強烈な毛管力で伝熱面に液体が自動的に供給されます.それと同時に,伝熱面近傍で発生した蒸気を迅速にマクロ孔(蒸気排出孔)から排出させます.その結果,気液の循環が促進させられることが,CHF向上の一因と考えています。一方、セル内部への液体の直接流入効果や、セル上部に形成される二次気泡の影響、伝熱面のぬれ性など、CHFに影響を与えることが、わかってきています。
本手法の特徴は,大伝熱面かつ高熱流束除去が無動力で可能となるという点です。応用範囲は,大型半導体の冷却や,原子炉事故時における圧力容器底部のパッシブ冷却などを考えています。さらなるCHF向上には、上記で述べたメカニズムを明確にする必要があります。



図3 ハニカム多孔質体を用いた限界熱流束向上の原理


図4 原子炉過酷事故時の溶融物炉内保持機構(In vessel Retention, IVR)システムへのハニカム冷却技術の適用
(圧力容器の底部に事前にハニカム多孔質体を設置)



図5 電子機器の冷却(データセンタ)

1. S. Mori and K. Okuyama, Enhancement of the critical heat flux in saturated pool boiling using honeycomb porous media, International Journal of Multiphase Flow, Vol.35, No.10, pp. 946-951, 2009.
2. S. Mori, Suazlan Mt Aznam, and K. Okuyama, Enhancement of the critical heat flux in saturated pool boiling of water by nanoparticle-coating and a honeycomb porous plate, International Journal of Heat and Mass Transfer, No.80, pp.1-6,2015.
3. S. Mori, Suazlan Bin Mt Aznam, Ryuta Yanagisawa, and Kunito Okuyama, CHF enhancement by honeycomb porous plate in saturated pool boiling of nanofluid, Journal of Nuclear Science and Technology, Volume 53, Issue 7, pp1028-1035,2016.
4. S. Bin Mt Aznam, S. Mori, F, Sakakibara, and K, Okuyama, Effects of Heater Orientation on Critical Heat Flux for Nanoparticle-deposited Surface with Honeycomb Porous Plate Attachment in Saturated Pool Boiling of Water, International Journal of Heat and Mass Transfer, Vol.102, pp1345–1355,2016.
5. Suazlan Mt Aznam, S. Mori, A. Ogoshi and K. Okuyama, CHF Enhancement of a Large Heated Surface by a Honeycomb Porous Plate and a Gridded Metal Structure in a Saturated Pool Boiling of Nanofluid, International Journal of Heat and Mass Transfer,Vol.115, pp969–980,2017.
6. S. Mori, N. Maruoka and K. Okuyama, Critical Heat Flux Enhancement by a Two-layer Structured Honeycomb Porous Plate in a Saturated Pool Boiling of Water, International Journal of Heat and Mass Transfer, Vol.118, pp 429–438,2018.
7. S. Mori, Suazlan Mt Aznam, R. Yanagisawa, F. Yokomatsu, and K. Okuyama, Measurement of a Heated Surface Temperature using a High-Speed IR Camera during CHF Enhancement by a Honeycomb Porous Plate in a Saturated Pool Boiling of a Nanofluid, Heat Transfer Engineering, Vol.41, Issue 15-16 (2019) 1-17.

①-2 高熱流束除熱(強制流動沸騰)
地球温暖化、エネルギー問題からガソリン車から電気自動車、燃料電池車への転換は必須と言われています。その中で次世代型車載用インバーターでは、パワーデバイスの高集積化が進み、その大きな発熱処理がボトルネックで大伝熱面・狭隘流路の高熱流束除熱可能な冷却手法が切望されています。強制流動沸騰になるとプール沸騰に比べて現象がさらに複雑になりますが、実用上、冷却スペースが限られている場合も多いため、この体系での冷却性能を高める研究開発も重要となっています。従来性能を凌駕するには、ミクロからマクロスケールにわたる気液の流れを最適化することが不可欠で、そのために新しい制御手法の確立が要求されています。そこで、本研究では、以下で示す、薄型流路伝熱面のCHFを大幅に向上させる新しい高効率流動沸騰機構を提案しています。
【新型下駄状多孔体による薄型流路内沸騰CHFの向上】
一般に狭隘流路のCHFは低く、その理由は図6で示すように、流路内断面内の端部を水が流れ、伝熱面中央でドライアウトが容
易に発生することが考えられます。そこで、本研究では狭隘流路で従来性能に比して大幅なCHF向上を可能とするため、下駄状多孔体による冷却法(図7)を提案しています。考えられる下駄状多孔体によるCHF向上効果は以下の通りです。
(1) 強烈な毛管力による発熱面への水供給と蒸気排出溝による気液循環の促進。
(2)複数流路への細分化による端部の水のかたより解消。
(3)圧力損失の低減(多孔体を流路断面全面に挿入する一般的な手法と比較して)。
これまでの研究でCHFは従来比200%まで向上できることがわかっており、メカニズムを解明することで、さらなるCHF向上促進を狙っています。




図6 薄型矩形流路内の気液分布



図7 下駄状多孔体による薄型流路の新規沸騰冷却法



図8 パワーデバイスの冷却
①-3  超高温体の急速冷却
1000℃以上の超高温物体の急速冷却は,例えば焼入れ処理の高度化による部品材料特性の飛躍的な向上、原子炉事故時の緊急冷却、リニアモーターカーにおいて超伝導状態にするために液体ヘリウムによる急速冷却など、など幅広い応用があります。一般に高温体が液体と触れると蒸気膜で両者が隔てられ冷却能力が悪くなり、緩慢な冷却となります。急速に冷却するためには、その蒸気膜を如何に迅速に崩壊させるかがポイントとなります。上記の背景を鑑み,本研究室では毛管力を活用し、かつ発生した蒸気を迅速に排出可能な、ハニカム多孔体を用いるという着想で,蒸気膜を短時間で崩壊させ高温物体を急速に冷却することに成功しています(冷却時間を1/60にまで短縮、図10)。本研究では、その冷却の物理を明確にし、超高温物体の急速冷却の極限を実験的・理論的に明らかにします。



図9 ナノ粒子層とハニカム多孔質体による高温体の急速冷却

図10冷却特性曲線

1. S. Mori, F. Yokomatsu, M. Tanaka, K. Okuyama, Rapid cooling of a high-temperature block by the attachment of a honeycomb porous plate on a nanoparticle-deposited surface, Applied Thermal Engineering, Vol.133, pp576-579, 2018.
2. F. Yokomatsu, W. Fogaça, S. Mori, and Mikako Tanaka, On the quenching of stainless steel rods with a honeycomb porous plate on a nanoparticle deposited surface in saturated water, International Journal of Heat and Mass Transfer, Volume 127, Part A, pp 507-514, December 2018.
3. S. Mori, Fumihisa Yokomatsu, and Yoshio Utaka, The enhancement of critical heat flux using spherical porous bodies in saturated pool boiling of nanofluid, Applied Thermal Engineering, Volume 144, 5 November 2018, Pages 219-230 , 2018.
②含水多孔質体を用いた高温蒸気瞬間生成
必要なときに必要な量の過熱水蒸気を生成できれば高付加価値化が得られるだけでなく,省エネにも大きく貢献できます。蒸気生成の高応答化には,加熱ヒータと水の熱容量を極限まで小さくすること,すなわち,細いヒータ線と含水多孔質体(図11)を用いることで達成可能です。本研究室で考案した瞬間過熱蒸気生成器は、図12に示すように断熱レンガブロックの中心に孔を開け,その内面に細いニクロム線をらせん状に設置し,装置の底面を液体に満たすだけというシンプルな形状をしています。この細いヒータをステップ状に加熱すると,常温水から300℃以上の過熱蒸気が数秒で生成できるということを実験的に明らかにしました(図13参照)。一方で、図の原理では飽和蒸気しか出ないはずですが,実際には加熱量によっては800℃近い過熱水蒸気が生成できるという興味深い結果が得られています。さらに定常状態におけるエネルギー利用効率(加熱量に対して流体に伝わる熱量)は約90%以上と非常に高いこともわかってきています。本研究では、過熱水蒸気が短時間・高効率で生成できるメカニズムを解明し、さらに蒸発の高性能化を目指します。適用先は、過熱蒸気調理器、殺菌機や蒸発操作が必要となる気相反応プロセス(水素化・脱水素化,酸化反応など)、医薬中間体製造プロセス(蒸発缶が多数使用されている)や溶剤回収等のバッチプロセスなどを考えています。




図11 含水多孔質体を用いた蒸気急速生成の原理


図12過熱水蒸気急速生成装置

図13 急速過熱水蒸気生成性能
(わずか数秒で常温水から300℃以上の過熱水蒸気を生成)

1. S. Mori, S. Hida, M. Tanaka, and K. Okuyama, Novel process for the rapid and efficient generation of superheated steam using a water-containing porous material, International Journal of Heat and Mass Transfer, 93pp1159–1168,2016.
③ 薄膜流れにおける気液物性が液膜挙動に与える基礎的研究
気液二相流は、多くの工業プロセスで見られますが、特に原子力発電所や火力発電におけるボイラーでは安全性、経済性の観点から、その把握が特に重要です。一般に、気液二相流特有の複雑な界面現象は、気液物性や流路形状などの影響を強く受けるため、現状では実験相関式に頼るしかなく、圧力の相似則は未だ確立されたとは言いがたい状況です。特に、液膜のドライアウト現象に影響の強い、じょう乱波挙動(図14,15)の把握は、重要とされています。そこで本研究では、気液物性(気液密度、表面張力、粘性係数)が液膜流のじょう乱波挙動に与える基礎的な影響を明確にすることを目的として研究を行っています。特に本研究では、HFC134aガスーエタノール系を用いることで、沸騰水型原子炉の実機状態(圧力7MPa、温度280℃)に似た流れを0.7MPaという比較的低圧下において作り出す方法を提案しています。このような手法により従来は、高温・高圧の実機条件の実験を多数繰り返す必要がありましたが、それを低圧下における実験で代替することで、開発コストの大幅な抑制と開発のスピードアップが可能となると考えています。



図14 じょう乱流れにおける液膜破断

図15 液膜厚さ測定結果
④ 吸着・吸収反応における熱物質移動とその応用
 ここでは、蒸気や水素が固体表面に可逆的に吸着と脱着を繰り返すことができる反応を対象としています。また、蒸気が液中に、ならびに水素が固体中に、それぞれ可逆的に吸収と放出を繰り返すことができる反応を対象としています。これらの可逆反応では、吸着・吸収時に発熱反応が、脱着・放出時に吸熱反応がともないます。そこで、外部から積極的に熱を除去と供給をすれば、これらの可逆変化の速度を能動的に制御できます。つまり伝熱制御をすれば反応速度制御が可能となります。可逆変化を利用すればエネルギー変換に活用できます。例えば,低圧で蒸気を吸着・吸収して、高圧で脱着・放出できれば、蒸気圧縮が可能となります。この研究では、熱と吸着・吸収反応を利用してエネルギー変換を行うために、吸着・吸収反応が生じる物体内の伝熱と物質の移動特性を明らかにして、それらの促進方法を探求します。

これまでの成果: 研究者情報 濱本芳徳 https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002667/research.html

④-1  水素素吸蔵合金充てん層の水素吸蔵・放出シミュレーションモデルの開発
地球にやさしいエネルギーとして水素エネルギーの利用が注目されています。水素吸蔵合金は、水素の輸送や貯蔵の有力な手段であるのみならずヒートポ ンプや蓄熱、さらに動力発生にも利用することが可能です。本研究では水素吸蔵合金充てん層の水素吸蔵・放出現象における熱と物質の移動に関する実験を行うとともに、そのシミュレーションモデルを開発します。
水素吸蔵合金は、吸蔵・放出する際に膨張・収縮現象もともなうため、層内の伝熱特性が変化して温度分布が複雑になります。そのため、水素吸蔵合金の水素吸蔵放出時の膨張・収縮現象を考慮した層内の熱物質移動を予測する理論解析モデルの確立を目指しています。特に本研究室では層の膨張収縮率と水素吸蔵量(水素組成C)および水素放出回数との関係の測定や、層の膨張収縮にともなう空隙率変化を考慮した熱物質移動のモデルの検討、水素吸蔵状態の合金層の有効熱伝導率の測定とその推算方法について検討しています。最近は水素貯蔵材料複合体の熱物質伝達と吸放出反応速度の予測を目指して研究しています。


④-2 細孔径を制御した吸着体の水蒸気吸着現象および排熱利用システムに関する研究
燃料電池の排熱や太陽エネルギーを有効利用する試みがあります。デシカント除加湿技術や吸着式冷凍機ヒートポンプは、特に60~80℃程度の低温排熱利用が可能であり、注目されています。本研究では、デシカント (吸着体)の細孔径の適正化を図ることにより吸着特性を制御して低温再生に適した材料を開発し、さらに吸着体から構成される熱交換器の開発に資する研究を行っています。例えば、除湿空気中の蒸気分圧や吸着体温度が吸脱着速度や平衡吸着量に及ぼす影響を実験により既往の吸着体と比較しながら解明したり、シミュレーションによりシステムの特性予測を行ったり、実験によりその性能評価を行ったりします。以下の項目に焦点をあてて研究をしています。

・ 省電力熱駆動型空調システムの開発(伝熱面一体型吸着材を用いた吸着反応器の熱物質移動特性):本研究では、吸着熱交換器の伝熱性能の向上を目的として、吸着材を伝熱面に直接生成した伝熱面一体型吸着材を提案しています。この有効性を検証するために、実験やシミュレーションにより伝熱面一体型吸着材を用いた吸着熱交換器内の熱物質移動特性の解明を行っています。特に吸着材の熱抵抗、平衡吸着量、吸脱着速度などの基礎データを取得し、それらの結果を用いて熱物質移動シミュレーションを行っています。そして、伝熱面一体型吸着材を用いた吸着熱交換器を製作して蒸気の吸脱着反応実験を行い、シミュレーションの予測精度の向上や吸着熱交換器の熱物質移動特性の解明を目指します。
・膜状吸着体の蒸気吸脱着反応速度計測と熱物質伝達抵抗の解明:蒸気吸着体は、固体内に直径がナノからマイクロメートルの細孔のトンネルが無数に形成された多孔質体です。細孔壁面に蒸気が吸着・脱着する現象をエネルギー変換技術に応用するためには、細孔内の蒸気移動特性を明らかにすることが重要です。本研究では細孔内での蒸気移動抵抗を実験と理論解析により明らかにすることを目的としています。そこで、いくつかの吸着体を対象に蒸気の吸着・脱着速度を測定して数値シミュレーションにより細孔内の移動抵抗を同定しています。

④-3 低熱容量型蒸気吸着反応器内の蒸気浸透性の解明と吸着式HPの出力予測への応用
吸着式ヒートポンプの小型高出力化には、蒸気吸着材を充てん塗布した吸着反応器の採用と反応器内での蒸気吸着・脱着速度の向上が重要です。本研究では、吸着材充てん層内の蒸気浸透特性を明らかにして、反応速度の促進を目指します。そこで、層に生じる圧力差を測定して反応速度を阻害しない層の特徴を見出します。そして、浸透性も考慮した出力予測を行い、ヒートポンプの出力向上の指針を提示します。

④-4 太陽集光加熱型蒸気吸着体の熱物資伝達特性と蒸気再生技術の確立
太陽熱を蒸気吸着材の再生(脱着)熱に利用する方法として、これまでは太陽集光を一度温風や温水に変換してから吸着体を加熱する方法がありました。しかし、変換する際に集熱温度が低下する問題がありました。そこで、本研究では吸着材に太陽集光を直接照射して加熱再生する方法を提案しています。例えば、吸着除湿デシカントロータのように水蒸気吸着体で構成される空気流路壁面に太陽光を直接照射して吸着体を加熱して、水蒸気を脱着させます。これを実現するためには、ロータ内の集光熱流束、ロータ前後の温湿度と空気流量を計測し、脱着速度が最大となる最適条件などを見出すことが重要です。また、ロータ内の吸着量や温度分布を予測して、効果的に集光照射する設計指針の提示も必要ですので、CFD解析ソフトを活用して流路壁面上の熱と物質の移動抵抗の特性を明らかにしています。

④-5 スマートエネルギー利用植物工場
中東などの高温多太陽エネルギーの地域および国内を対象に、安価でメンテナンスの容易な植物工場を実現する温湿度独立制御技術と太陽集熱技術の開発をおこないながら事業化を目指しています。市場調査の結果、国内市場の開拓に注力するために国内でシステムの実証パイロット試験を行い、葉もの野菜(葉菜)の栽培試験を行ってきました。一般に植物工場には設備費と運転費の低コスト化に加えて、栽培植物の収量増大や高付加価値化が求められています。これらの要求を満たしながら生育に適した環境制御をおこなうためには、設備が安価であり,運転時に電力を極力使わない太陽光利用型のスマートエネルギー利用植物工場が適しています。この植物工場は、熱水採取温度が比較的低いため構造が簡単なバルーン型太陽集熱器と低温熱で駆動する吸着式冷温水機を組み合わせた冷温熱供給システム、および空調空間が小さい局所閉鎖型栽培槽から構成されています。本研究では、引き続き低コスト化に向けた設計指針の提示を行っています。
濱本芳徳,太陽光エネルギーを使用した冷温熱プロセスとその植物工場への利用 ―スマートエネルギー利用植物工場―化学工学,第84巻第11号 pp. 587-590(2020)




⑤ 薄液膜からの蒸発熱伝達に関する研究~植毛加工伝熱面における液膜の流動と吸収速度~
伝熱面上の液膜からの蒸発伝熱は液膜の熱抵抗に依存します。熱抵抗は、液膜の厚さに影響を受けるため、より薄い液膜形成が伝熱促進に効果的です。本研究では、吸水性の高い植毛面に注目して、液膜からの蒸発伝熱に及ぼす植毛の影響を明らかにします。そこで、液膜形成の観察や吸水速度の測定を行うとともに液膜厚さを予測する理論モデルを作成しています。そして、蒸発器の伝熱改善に有用な最適化設計に資する知見を提示します。
これまでの成果: 研究者情報 濱本芳徳 https://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002667/research.html
過去の研究
次世代原子炉開発のための超臨界圧流体の伝熱流動特性の解明
 第4世代原子炉として技術開発中の超臨界圧水冷却原子炉(SCWR)が実用化されると、現在の軽水炉に比べて、高い蒸気圧力と温度条件によりサイクル熱効率が上昇して発電性能が飛躍的に向上するとともに、冷却水再循環の方式でなく貫流方式となるため、システムが大幅に簡素化されます。
本研究は、SCWRの実用化を目指した国際的プロジェクトに参加して、原子炉燃料集合体(バンドル)流路における超臨界圧流体の伝熱問題を解明しようとするもので、炉設計に必要な熱水力的特性を対象として、六角燃料集合体を模擬したテストセクションを用いた種々の伝熱流動試験を行い、熱伝達率や圧力損失、サブチャンネル間クロスフローなど設計・開発に有用な基礎データを得るとともに熱伝達の予測式を開発・作成しています。
Editors: Yoshiaki Oka and Hideo Mori, Supercritical-Pressure Light Water Cooled Reactors, Springer, ISBN978-4-431-55024-2 (2014)
冷蔵庫用蒸発器管内の除霜運転時における冷媒挙動と伝熱特性の解明  
冷蔵庫は、家庭内消費電力に占める割合が大きく、省電力化が求められています。特に冷蔵庫の蒸発器表面へ霜が付く着霜現象は、冷凍機性能の低下および消費電力の増大をもたらすため、効率的な除霜(霜融解)が近年の課題となっています。
冷蔵庫の除霜運転には、ふく射ヒータで加熱を行う方式が広く用いられていますが、除霜性能の向上に関する従来の検討は、主として蒸発器伝熱管外側の空気側の自由対流ならびにふく射伝熱の熱・物質移動の観点からなされています。本研究では、除霜運転時における蒸発器管内の冷媒による熱輸送現象に着目し、その流動挙動と伝熱特性の理解と応用により、蒸発器形状および除霜運転条件の最適化を試みました。
微細流路における気液二相流動様相と圧力損失および沸騰熱伝達特性の解明 
 家庭用電力のかなりの割合を占める空調機の一層の高性能化を図るためには、蒸発器および凝縮器の熱交換器の性能向上が重要であり、その伝熱管として、多孔扁平管など1 mm径程度の微細流路の伝熱管の利用が考えられています。本研究は、この高性能伝熱管の開発のために、微細流路における冷媒の気液二相流動様相と圧力損失および沸騰熱伝達の特性を明らかにすることを目的としています。円形および非円形の微細流路について、沸騰熱伝達と圧力損失の実験を行い、それらの特性を支配する気液二相の流動挙動を観察し、従来の大きい径の管の場合と比較して、それらの特性を明らかにしています。また、地球温暖化係数の小さい新冷媒についても実験を行い、熱交換器設計に有用なこれらを含む冷媒の熱伝達、圧力損失の予測式を作成しています。
成果の一部
1. Kazushi MIYATA, Hideo MORI, Yoshinori HAMAMOTO, Correlation for the Prediction of Flow Boiling Heat Transfer in Small Diameter Tubes, Refrigeration, Vol.87 No.1016 pp.371-372 (2012)
2. Koji Enoki, Hideo MORI, Kazushi MIYATA, Yoshinori HAMAMOTO, Flow Patterns of the Vapor-liquid Two-phase Flow in Small Tubes, Refrigeration, Vol.89 No.1040 pp.368-369 (2014)
3. Yudai Matsuse, Koji Enoki, Hideo Mori, Keishi Kariya, and Yoshinori Hamamoto, Boiling Heat Transfer and Pressure Drop of a Refrigerant R32 Flowing in a Small Horizontal Tube, Heat Transfer Engineering, Vol.37, Issue 7-8, pp. 668-678 (2016)
4. Kizuku KUROSE, Kazushi MIYATA, Yoshinori HAMAMOTO, Hideo MORI, Characteristics of Flow Boiling Heat Transfer in Non-Uniformly Heated Parallel Mini-Channels, Refrigeration, Vol.94 No.1100 pp.349-350, (2019).
5. Kizuku Kurose, Wataru Noboritate, Shohei Sakai, Kazushi Miyata, Yoshinori Hamamoto, An experimental study on flow boiling heat transfer of R410A in parallel twomini-channels heated unequally by high-temperature fluid, Applied Thermal Engineering, Vol. 178, September 2020, 115669 (9 pages)
6. Kizuku KUROSE, Kazushi MIYATA, Yoshinori HAMAMOTO, Hideo MORI, Flow Boiling Heat Transfer and Flow distribution of HFC32 and HFC134a in Unequally Heated Parallel Mini-channels, International Journal of Refrigeration, Vol.119, November, pp.305-315(2020)
プレート式熱交換器における超臨界圧流体の冷却熱伝達特性の解明 
 現在90℃程度の給湯用温熱源機器としてヒートポンプ (HP) が民生分野で普及しつつあります。一方、産業界では、より高温の130℃程度の熱源需要のニーズがあり、産業用HPの高温化およびコンパクト化が課題となっています。高温HPのコンパクト化には、プレート式熱交換器 (PHE) が有効ですが、耐圧性能に限りがあり、臨界圧力の低い冷媒を超臨界圧状態で使用することが検討されています。超臨界圧流体の冷却熱伝達に関する研究は、これまで円管を対象としたものが多く、PHEに関するものは加熱・冷却を問わずほとんどないため、本研究では、高温HPの熱放出過程を対象として、PHEを用いた実験を行い、PHEを模擬したプレート間流路の流動様相の観察も行って、PHEにおける超臨界圧流体の冷却伝熱特性を明らかにしています。
1. 宮田一司, 柳原俊太郎, 谷口隆寛, 森英夫, 濱本芳徳, 梅沢修一, 杉田勝彦, プレート式熱交換器における臨界圧近傍高圧冷媒の凝縮熱伝達, 日本冷凍空調学会論文集, 第34巻第4号 pp.443〜452(2017)
2. 黒瀬築, 柳原俊太郎, 宮田一司, 濱本芳徳, 森英夫, シェブロン型プレート式熱交換器の流動特性に関する実験および数値シミュレーション, 日本機械学会論文集, 第84巻第862号, NO.17-00593, pp.1-18(2018)
3. Kazushi MIYATA, Shuntaro YANAGIHARA, Naoto WATANABE, Hideo MORI, Yoshinori HAMAMOTO, Shuichi UMEZAWA, Katsuhiko SUGITA, Effect of Chevron Angle on Condensation Heat Transfer of Refrigerants at High Pressures in Plate Heat Exchangers, Trans. of the Japan Society of Refrigerating and Air Conditioning Engineers, Vol. 35, No. 4, pp.383-388 (2018)
4. Kazushi MIYATA, Yuki YAMASAKI, Kizuku KUROSE, Yoshinori HAMAMOTO, Hideo MORI, Shuichi UMEZAWA, Cooling and condensation heat transfer and pressure drop of a refrigerant at high pressures in a chevron-type plate heat exchanger with high chevron angle, Mechanical Engineering Journal, Vol.7, No.4, pp. 20-00107 (2020)