水素吸蔵合金充てん層の水素吸蔵・放出シミュレーションモデルの開発

  • 1. 研究背景

     低炭素化社会を目指して自然エネルギーの大量導入が考えられています.  しかし,自然エネルギーは時間帯による出力変動や資源分布地域の偏在によるエネルギー需給ギャップが生じます.そこでエネルギーの効率的な一時貯蔵技術として水素エネルギーが注目されています.
     現在の水素の製造方法としては水の電気分解と熱分解法が中心です.
     水素の貯蔵方法として主に,高圧の圧縮水素をタンクに貯蔵する高圧水素方式,低温(-253℃)の液体水素をタンクに貯蔵する液体水素方式,水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる水素吸蔵方式があります.
     水素吸蔵方式は高体積密度で水素を貯蔵できるため貯蔵装置を小型化で,常温常圧で水素を貯蔵・供給できるため高安全性であるという特徴があります.
     吸蔵合金を冷却・加熱するか,水素を加圧・減圧することにより,合金内に可逆的に水素を吸蔵・放出させることができます.
     また水素吸蔵時に発熱反応,放出時に吸熱反応を伴うためヒートポンプや蓄熱への応用も注目されている.
    • Fig.1 LaNi5粒子
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  • 2. 水素吸蔵合金とは

     水素吸蔵合金は水素を吸蔵・放出する特性を持つ合金です.マグネシウム,パラジウム,チタン,ジルコニウム,バナジウム,希土類金属などの水素と反応しやすい金属をベースに,鉄やニッケルなど水素と反応しにくい金属で合金にすることにより,水素吸蔵能力と放出能力を持ちます.代表的な水素吸蔵合金にはMg2Ni,LaNi5,TiFeなどがあります.
     水素吸蔵合金には下記のような特徴があります
    ① 気体水素や液体水素よりも高い水素密度で水素を貯蔵できる.
    ② 常温・大気圧付近の水素と速やかに反応して水素を貯蔵できる.
    ③ 水素を吸蔵している合金は加熱あるいは減圧により,容易に水素を放出できる.
    ④ 水素吸蔵時に発熱反応,放出時に吸熱反応を伴う.

     水素吸蔵合金を利用した貯蔵装置やヒートポンプ蓄熱における課題として,発熱吸熱反応をともなうので水素の吸蔵放出反応を速やかに行うためには吸蔵時の発熱除去,放出時の熱供給が必要です.通常,合金は粉末粒子状であり,熱交換器に充填された層内で反応します.
     したがって,層内の伝熱および伝熱促進に関する研究が重要です.
  • 3. 研究目的

     水素吸蔵合金の吸蔵放出時での発熱・吸熱反応を利用した熱交換器の性能予測を行うためには,充てん合金層内の熱物質移動特性を把握することが重要です.
     しかし,水素吸蔵合金は吸蔵・放出する際,膨張・収縮現象も伴うため,層内の伝熱特性が変化し,温度分布が複雑になります.
     そのため,水素吸蔵合金の水素吸蔵放出時の膨張・収縮現象を考慮した層内の熱物質移動を予測する理論解析モデルの確立を目指しています.
     特に,本研究室では層の膨張収縮率と水素吸蔵量(水素組成C)および水素放出回数との関係の測定や,層の膨張収縮にともなう空隙率変化を考慮した熱物質移動のモデルの検討,水素吸蔵状態の合金層の有効熱伝導率の測定とその推算方法について検討しています.
    • Fig.2 反応モデル