細孔径を制御した吸着体の水蒸気吸着現象および排熱利用システムに関する研究

  • 省電力熱駆動型空調システムの開発
    ―伝熱面一体型吸着材を用いた吸着反応器の熱物質移動特性に関する研究―
  • 1. 研究背景

     家庭用エネルギー消費の推移を図1に示します.
     エネルギー消費量は年々増加しており,特に冷温熱需要が高い割合を占めていることがわかります.省電力・省エネルギーの技術開発がこれまで以上に取り組まれる必要があると考えます.
     そこで,これまで利用できなかった太陽熱や工場などの排熱を有効活用できる,熱駆動型の冷凍機・ヒートポンプや除加湿器の普及が期待されます.
     本研究室では,100℃未満の熱により駆動する吸着ハイブリッド空調システムの開発を目指すとともに,その要素機器の高度化に資する熱と物質の移動現象の解明を行っています.

     図2に吸着ハイブリッド空調システムの概念図を示します.  “吸着ハイブリッド”という言葉は,駆動エネルギー源が熱であり,蒸気吸着現象を用いた吸着冷凍機・ヒートポンプとデシカント除加湿器の複合システムであることに由来します.
     このシステムの開発,そして普及には,機器の小型化が必要であり,特に大きな体積割合を占める吸着熱交換器の小型化が不可欠です.
     そのために,単位質量あたりの吸着材の蒸気吸着速度を向上させ,吸着材の使用量を低減させる必要があります.
    • Fig.1 家庭用エネルギー消費の推移
      (出典:エネルギー白書2012)
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  • 2. 蒸気吸着現象と吸着ハイブリッドシステム

     図3に蒸気吸着現象の概念図を示します.蒸気吸着現象は,吸着材表面に蒸気分子が凝集する現象のことで,これは吸着材雰囲気の蒸気圧力および吸着材の温度に依存します.一般に,蒸気圧力が一定の場合,吸着材の温度が高いほど吸着量は小さくなり,これを脱着と呼びます.一度蒸気を吸着した吸着材も,加熱・脱着することで再生し,再び蒸気を吸着することができます.蒸気の吸着・脱着反応はそれぞれ発熱・吸熱を伴うので,吸着・脱着現象の促進にはそれぞれ吸着材の除熱・加熱が必要です.
     吸着ハイブリッドシステムは,吸着冷凍機・ヒートポンプおよびデシカント除加湿器の複合システムです.
     吸着冷凍機は,一組の吸着材を充てんした熱交換器(以下,吸着熱交換器),冷媒の蒸発器および凝縮器から構成されています.ひとつの吸着熱交換器が凝縮器と接続されており,外部からの加熱により脱着が進み,吸着材は再生されます.これを脱着過程と呼びます.また,再生された吸着熱交換器は蒸発器とつながっており,吸着材が冷媒蒸気を吸着することにより冷媒の蒸発が進み,このとき冷媒が潜熱を奪うことから,冷熱が生じます.これを吸着過程と呼びます.この脱着・吸着の過程を,一組の吸着熱交換器でそれぞれ交互に繰り返し運転することにより,連続的に冷熱が得られます.
     デシカント除加湿器は,主に一組の吸着熱交換器で構成されています.ひとつの吸着熱交換器は冷却し,空気中の水蒸気を吸着・除湿させます.また,もうひとつの吸着熱交換器は加熱し,水蒸気を脱着・加湿させます.これらの過程を一組の吸着熱交換器でそれぞれ交互に繰り返し運転することにより,連続的に空気を除湿・加湿することができます.また,必要に応じて,除湿・加湿した空気をそれぞれ冷却・加熱し,供給する空気温度を制御します.
  • 3. 研究目的

     蒸気吸着現象は,吸着材の温度に依存し,吸着・脱着現象の促進にはそれぞれ吸着材の冷却・加熱が必要なので,吸着速度の向上には吸着熱交換器の伝熱性能を促進する必要があります.
     そこで,本研究では,吸着熱交換器の伝熱性能の向上を目的として,吸着材を伝熱面に直接生成した,伝熱面一体型吸着材を提案しています.
     この有効性を検証するために,実験やシミュレーションにより,伝熱面一体型吸着材を用いた吸着熱交換器内の熱物質移動特性の解明を目的としています.
     特に,吸着材の熱抵抗,平衡吸着量,吸脱着速度などの基礎データを取得し,それらの結果を用いて熱物質移動シミュレーションを行います.
     そして,伝熱面一体型吸着材を用いた吸着熱交換器を製作し,蒸気の吸脱着反応実験を行い,シミュレーションの予測精度の向上や,吸着熱交換器の熱物質移動特性の解明をめざします.
    • Fig.2 吸着ハイブリッド空調システム
    • Fig.3 蒸気吸着現象
    • Fig.4 伝熱面一体型吸着材